東京都渋谷公園通りギャラリーは、2023年春の企画展として、アール・ブリュット ゼン&ナウ Vol.3「ただよう記憶の世界」を開催いたします。

「アール・ブリュット ゼン&ナウ」は、国内外のアール・ブリュットの動向において、長く活躍を続ける作家と、近年発表の場を広げつつある作家を、さまざまな角度から紹介する展覧会シリーズです。
3回目の「ただよう記憶の世界」では、国内作家5名をとりあげ、視覚や味覚など身体の感覚の「記憶」から生まれた作品を「作家のあるひと時の記憶の世界」として紹介します。
それぞれ独自の感覚と視点によって、さまざまなかたちで作品へと姿を変える作家たちの「記憶の世界」。食べた料理や見た風景と自然、幼いころの絵描き歌が、作家の手によって鮮やかに現れ、作家の過ごした時間へと私たちを誘います。たとえ同じ時間を過ごしても、記憶はその人唯一のもの。それらの違いも、一人ひとりを形づくる大切なひとつの要素です。忙しく通り過ぎてしまった日々の記憶や、つい忘れてしまいがちな身体で感じた記憶などに少し想いを馳せると、もしかしたら、ささやかでありながらも大切な記憶に再会できるかもしれません。ひとつのかたちにはとどまらない作家たちの「記憶の世界」と、それぞれの今ここにはない時間を、ただよってみませんか。
展覧会概要
国内外のアール・ブリュットの動向において、長く活躍を続ける作家と、近年発表の場を広げつつある作家を、さまざまな角度から紹介する展覧会シリーズ「アール・ブリュット ゼン&ナウ」3回目の開催。国内作家5名を取り上げ、視覚や味覚など身体の感覚の記憶から生まれた作品を、「作家のあるひと時の記憶の世界」として紹介します。
展覧会名:アール・ブリュット ゼン&ナウ Vol.3 ただよう記憶の世界
会期:2023年4月22日(土)~6月25日(日)
開館時間:11:00~19:00
休館日:月曜日
会場:東京都渋谷公園通りギャラリー
入場料:無料
出展作家:後藤友康、小林一緒、東本憲子、戸來貴規、松原日光
主催:(公財)東京都歴史文化財団 東京都現代美術館 東京都渋谷公園通りギャラリー
展覧会ウェブサイト: https://inclusion-art.jp/s/tadayoukioku
出展作家プロフィール
後藤友康(GOTO Tomoyasu)1965-

埼玉県生まれ。1984年から2019年頃埼玉県にある「川口太陽の家」に所属し、創作を行なった。
色鮮やかなクレヨンやインクで、ベニヤの板やレコード盤、CDなどに描かれた線たちは、幼いころに聴いた絵描き歌がもととなり生まれた表現である。
後藤は音に関心が高く、クラシック音楽をはじめ、家族や施設の職員の声など様々な音を、カセットテープに重ねて録音し、たびたび聴いていたという。
絵描き歌の作品を描く際には、独自のアレンジを加えながら描いている。段ボールから始まった、絵描き歌の作品は、ベニヤ板へと変わっていった。
はじめは、後藤一人で絵描き歌を歌いながら描いていた。徐々に、施設の職員と共に歌ったり、絵が描かれた木の板を積み重ねたりする仲間たちに囲まれながら描くなど、制作の環境も様々な変化をしていった。この作品は、後藤自身の幼いころの記憶と、施設で出会い過ごした人々との出会いの記憶に繋がっているように見える。主な展示に「工房集展 FundamentalII」(マキイマサルファインアーツ[東京都]、2015年)などがある。
小林一緒(KOBAYASHI Itsuo)1962-

東京都生まれ。調理師として、蕎麦屋や病院の給食センターなどで勤務した。18、19歳頃から、小林自身が食べた食事を思い出してメモに残すようになる。26歳頃から現在のような形での制作へと変わった。18歳頃から書き溜めたメモ書きをもとに、当時の記憶を呼び起こしながら描いている。数々の描かれた食事は、ひとつひとつの食材が見えるように再配置され、まるで弁当の図解を見ているようだ。
ペンや色鉛筆などを用いて、サバの塩焼きの焼き目やコロッケの衣の質感、刺身や野菜の食材の色まで、緻密に描きだされている。作品には、絵と共に味の感想や、食材について触れたコメントも添えられている。そうしたコメントを書くことで、食べた時の記憶を新たな記憶へと生まれ変わらせている。近年は、しかけ絵本のように立体的に立ち上がる作品も制作している。主な展示に「Art Brut du Japon, un autreregard」(アール・ブリュット・コレクション[スイス・ローザンヌ]、2018-2019年)などがある。
東本憲子(HIGASHIMOTO Noriko)1983-

大阪府生まれ。大阪市にある「西淡路希望の家」に所属。織物をはじめ、イラスト作品など様々な作品を制作している。
気泡緩衝材(エアキャップ)の気泡に、油性カラーペンや水性インクペンを用いて細かく塗り分けながら直線や面が繋がり、幾何学模様は生み出されている。エアキャップロール1本を使い、端から端まで細かく塗られている。
気泡をじっくり見つめると、綺麗な丸ばかりだけではなく、ツノのようにすこし丸からはみ出した部分があるなど、気泡一つひとつそれぞれ異なっており、東本が制作をしている時の息遣いも感じられるようである。
さらに、エアキャップのロールを広げると、幾何学模様の中に、桜の花のような模様やクリスマスツリーのような木が点在して現れる。家族で様々な所に出かけることが多い東本にとって、エアキャップの気泡から生まれた模様は、まるで過ごした時間や見たものたちの記憶を大切に包みこんでいるようである。
主な展示に「北九州未来創造芸術祭」(北九州市立美術館(本館)[福岡県]他、2021年)などがある。
戸來貴規(HERAI Takanori)1980-

岩手県生まれ。《にっき》は、岩手県花巻市にある「やさわの園」に所属し過ごすなかでの日常的な習慣であった。戸來とこの習慣に注目した職員による、時間をかけた丁寧なやりとりによって、表現について少しずつ明らかとなっていった。
B5判の紙の両面に描き出された模様のような形。戸來自身が「にっき」や「おべんきょう」「おえかき」とも呼ぶこの作品は、日付の数字に1を足した数字を気温として書くなど、独自の規則により構成されている。1枚のみを一気に描く事はなく、気分に応じて紙を変えながら描いている。
裏側には「きょうはラジオたいそうをやりました。」と始まる同じ文章が書かれている。同じ文章でありながらも、一枚一枚塗りつぶされた形が少しずつ異なっているのも魅力の一つである。
《にっき》は、小学生のころの連絡帳の習慣がなくなったことで始まったのではないかとされている。作品のなかで、過去の連絡帳の記憶と日常の習慣の記憶が交わりあっているようである。
主な展示に「JAPON」展(アール・ブリュット・コレクション[スイス]、2008-2009年)などがある。
松原日光(MATSUBARA Hikaru)1975-

京都府生まれ。16歳頃から自宅にて刺繍を始める。松原が生み出す刺繍は、1針1針が緻密でありつつ、大胆な形でモチーフを表現している。
家族旅行で訪れた山や景勝地をはじめ、庭で季節ごとに咲く花や植物などのモチーフは、松原の独特な色彩感覚によって鮮やかな色彩と特徴的な形の刺繍へと姿を変える。
乗り物を好み、旅行先で見た船など乗り物も多く作品のモチーフとして登場する。松原自身の「船(飛行機)に乗りたい」という想いも刺繍をするきっかけとなっていた。自宅の窓から庭の木が見える部屋で、たくさんの旅行ガイドや写真のアルバム、刺繍糸に囲まれながら、松原の様々な場所と時間に繋がる刺繍の世界が生まれる。
松原の生み出した刺繍作品は、松原が旅先で見た景色や、日々の生活の中で目にする植物の美しさを想像する楽しさを伝えてくれる。
主な展示に「共生の芸術祭「幅と奥行き」」(京都府立文化芸術会館他、2016年)、「共生の芸術祭「旅にでること、その準備」」(京都市美術館別館他、2021-2022年)がある。
関連イベント
ゲストを招いたトークイベントやギャラリートークを予定しております。詳細は当ギャラリーWebサイト(https://inclusion-art.jp)にて随時お知らせいたします。
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