Ars Electronica Festival 2026 窪田望 登壇イベントレポート

窪田望がドキュメンタリー作品《AIが消し去る声(AI's Silent Omissions)》の上映会と国際学術会議に登壇し、AI時代の「見えない排除」を問いかけました




アーティスト 窪田望(株式会社Creator’s NEXT 代表取締役)が、2026年9月9日~13日にオーストリア・リンツで開催された国際的なメディアアートの祭典「Ars Electronica Festival 2026」に参加しました。窪田が監督したドキュメンタリー作品《AIが消し去る声(AI's Silent Omissions)》は、国際コンペティション「Prix Ars Electronica 2026」のDigital Humanity部門でHonorary Mention(栄誉賞)を受賞。現地では表彰式への出席に加え、受賞作品の上映とアーティストトーク、国際学術会議「Expanded 2026」での研究発表を行いました。
AIが社会のさまざまな領域へ浸透するなか、「何をAIに学習させるのか」「誰が“正常”を決めるのか」「その過程で何が見えなくなるのか」--。世界各国のアーティスト、研究者、観客との対話を通じて、窪田はどのような問いを投げかけたのか。イベントの様子をレポートします。

■世界を代表するメディアアートの祭典「Ars Electronica Festival」




Ars Electronicaは1979年にオーストリア・リンツで始まり、アート、テクノロジー、社会の関係を問い続けてきた国際的な文化機関です。その国際コンペティション「Prix Ars Electronica」には、2026年、106カ国から4,329作品の応募がありました。

今年のテーマは「Negotiating Humanity」
旧石器時代の壁画からAI時代のSFまで、生態学的・技術的・政治的な激変はつねに「人間とは何か」という問いを突きつけてきた--その問いを、いま改めて引き受けるというテーマです。AIが人間の輪郭を引き直そうとするこの時代に、「誰が人間の内側に置かれ、誰が外側へ押し出されるのか」を問う。それは、窪田が《AIが消し去る声》で追い続けてきた問いそのものでした。

Ars Electronica Festival 表彰式で登壇する窪田

ドキュメンタリー作品《AIが消し去る声》について
《AIが消し去る声》は、生成AIが5本指ではない手--たとえば裂手症の人々の手を排除すべきエラーとして静かに扱っている、という気づきから生まれたドキュメンタリーです。AIの専門家でもある窪田は、裂手症の当事者やご家族、医療従事者との対話を重ね、AI社会の背後にある「分類の暴力性」に迫ります。作品が映し出すのは、当事者の身体を一方的に記録することではなく、AI開発に関わってきた作家自身が、自らの中にあった「正しい身体」への無意識の前提と向き合っていく過程です。AIを断罪するのではなく、社会にすでにある価値観を映す「鏡」として捉え、私たちが無意識に前提としてきた「正常さ」の境界を見つめ直す作品です。









■《AIが消し去る声》作品上映&アーティストトーク


アーティストトークでの一幕

9月10日、《AIが消し去る声》の上映会が、14メートル×7メートルの巨大スクリーンを備える「JKU medSPACE」で開催されました。上映後には、モデレーターや観客から次々と質問が寄せられました。その一部をご紹介します。

Q「この作品を制作するきっかけは?」
窪田「画像生成AIが出力した3本指の手を見たとき、エンジニアとしての感覚で『これは修正しなければ』と感じました。でもすぐに『それは正しい考えなのか?』と思ったのです。3本指、2本指、4本指、6本指--そうした身体で暮らしている人たちがたくさんいるはずだ。会って話を聞きたい。そう思い、先天性四肢障害(裂手・裂足、欠指など)を持つ子どもたちや当事者、家族を支援するNPO法人 Hand&Footの代表理事である浅原さんにご連絡したことから始まりました。」

Q「教育はこうした状況をどう扱うべきか?」
窪田「この映像を多くの大学や学校で上映し、『何が“普通”で、そもそも誰が“普通”を定義しているのか』を学生たちと議論してきました。学生はこれまで考えたことのない問いに対して、同じ視点に立って、深く考えることができています。教育には、もっと問いと議論が必要だと思います。技術の改善だけが答えではありません。ある身体が“普通”になれば、また別のマイノリティが生まれる。だからこそ、問い続けなければならないのです」

Q「社会全体で“普通とは何か”の理解が広がることが、包摂的なAIにつながるのか?」
窪田「その通りです。問い、議論することが何より重要です。AIは戦争や権力のためにも使われうる。誰がAIをコントロールしているのか--特定の国や文化なのか、それとも一般市民なのか。これはこの時代の大きな問題です。私たちはいま、その分かれ道に立っています」

■国際学術会議で「不在の生産(Production of Absence)」を発表




窪田は、アニメーション・インタラクティブアートの国際学術会議「Expanded 2026」にも登壇し、論文「不在の生産:コードと類型学から読み解く Stable Diffusion の NSFW フィルター(Production of Absence: Reading Stable Diffusion’s NSFW Filter through Code and Typology)」を発表しました。

窪田が着目したのは、画像生成AI「Stable Diffusion」に組み込まれた安全フィルター(NSFWフィルター)です。フィルターが画像を“不適切”と判定すると、システムはそれを黒い画像や警告に置き換えてしまう。元の画像は届かず、消されたこと自体にも気づけない。窪田はこれを「不在の生産(Production of Absence)」と名付けました。

実験では、「hand sketch, pencil drawing(手のスケッチ、鉛筆画)」というプロンプト一つで42,158回の生成を行い、フィルターに引っかかった画像1万枚を収集。無作為に抽出した316枚を目視で分類したところ、性的な内容は1枚、暴力的な内容は0枚。残りの大半は、指の本数や配置が異なる、解剖学的に非典型的な手の画像であり、取材を重ねてきた裂手症と思われる手も数多く含まれていました。


《The Invisible Hand of AI》

《The Invisible Hand of AI》を近くで見ると、NSFWフィルターによって消し去られた手の画像が無数に並べられている


10,000枚の画像はその後、高さ4m×幅1mのインスタレーション《The Invisible Hand of AI》へと展開されました。通常は目にすることのできない「不在の生産」を、鑑賞者が身体的に経験できる作品へと変換しています。

そして、この問いで発表を締めくくりました。
「不在とは何か。誰が不在を作ったのか。どの国が、どの文化が、どの身体が、AIの中に不在を作ったのか。」


学会での発表後も参加者との活発な議論が展開されました。
Q&Aを少しだけ抜粋してご紹介します。

Q「この研究の出発点はどこにあるのか?」
窪田「私はAIの外側にいるわけではありません。23年間会社を経営し、AI開発に携わってきた当事者です。だからこそ、この論文と作品は、自分自身へのカウンターパンチでもあります。AIはデータベースから作られます。しかし、そのデータベースを作っているのは、人間社会が共有してきた『当たり前』です。だからこそ、AIだけを批判するのではなく、AIを通じて、私たち自身の『当たり前』に問いを返す必要があると考えています」

Q「より説明責任のあるフィルタリングとはどのようなものか。そのカテゴリーは誰が決めるべきなのか?」
窪田「とても難しい問いです。分類という行為そのものが、必ず“外れ値”を生み出します。AI開発では精度を高めるため、分類できないデータや外れ値を無視したり、取り除いたりすることがある。しかし、その外れ値は、現実社会では単なる数字ではありません。外れ値には身体があり、文化があり、文明があり、たくさんの心があることを忘れてはいけません。だからこそ考えたい。AIにとっての『良い分類』とは、本当に精度だけで決められるものなのか。それとは異なる、AIとの向き合い方があるのではないか--。答えを提示するのではなく、ここにいる研究者やアーティストの皆さんと一緒に考えたいと思います」


■日本でも《AIが消し去る声》上映とアーティストトーク開催が予定されています

Ars Electronica Festivalで上映した《AIが消し去る声》は、日本でも2026年9月と11月に作品上映およびアーティストトークの機会がございます。

■イベント1.  Cultural Typhoon 2026
文化・社会現象をフラットな関係性の中で議論・発表するオープンで活気ある国際的な文化イベント、およびそれを主導するカルチュラル・スタディーズ学会の年次大会です。
イベント内で作品上映およびアーティストトークを開催します。

日程:2026年9月26日(土)14:30~15:30
会場:昭和女子大学(東京都世田谷区太子堂一丁目7番57号)
申込方法:詳細は下記HPを参照ください。
詳細:https://cultural-typhoon.com/2026/09/informationforct2026/


■イベント2. 前橋映像祭2026
前橋国際芸術祭2026 地域連携企画として開催される映像祭です。作品上映後にはアーティストトークも行う予定です。

日程:2026年11月13日(金)17:15~18:15
会場: 裏ノ間(re/noma) (群馬県前橋市千代田町4-1-2)
申込方法:詳細は下記HPを参照ください。
詳細:https://maebashimediafestival.jp/



■アーティスト 窪田望 プロフィール


窪田望

窪田は、国内外に20のAI特許を持っており、AIの社会実装事業を推進する企業(株式会社Creator’s NEXT)の経営者としての顔も持っています。これまでデータ解析やAI 技術を20年来研究してきました。AI開発の現場では入力するデータに異質なデータが混じると良い出力精度が出なくなることがあり、これを外れ値と呼び、通常はこれを排除します。窪田は「社会的マイノリティーなどの生活は無視されて良いはずはないのに、進化の過程で見落とされている」とこれらの実態に疑問を感じました。消えゆく地方の方言、ノイズとして削除された鈴虫の音色、そして無自覚に排除されている5本指ではない手。こうしたマイノリティーを浮かび上がらせるような作品を制作してきました。メディアテクノロジーとコンセプチュアルな手法を駆使し人間とAI というありふれた二項対立からの脱構築の実践を試みています。

窪田望公式サイト


















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