今はいつのことか―小村雪岱と玉山拓郎
小村雪岱(こむら・せったい)は、大正から昭和初期にかけて活躍した美術家で、東京美術学校(現・東京藝術大学)で学び、日本画のみならず挿絵や装幀、舞台や映画の美術・時代考証まで、幅広い分野の第一人者として活躍しました。資生堂社とのゆかりは、資生堂意匠部*1 (後の「宣伝部」)に1918年から1923年にかけ在籍したことに始まります。雪岱は、退社後も、現在に至るまで当社で使われている「資生堂書体」や当社の和文ロゴタイプの基礎の成立に深く関わりました。モダンで繊細、余白を生かした雪岱の作風は、現在まで続く資生堂スタイルにも相通じるものがあるといわれています。
「今朝から拝んで歩いた御仏の上を思ひ虫の音を聞いてゐると、
現在が今の事か昔の事か分らなくなる。」
――小村雪岱「古寺巡り」、『モダン日本』8巻1号、1937年1月1日
本展のメインタイトル「今はいつのことか」は、雪岱の晩年の随筆「古寺巡り」に記した「現在が今の事か昔の事か分らなくなる」という一節に由来します。
雪岱の表現には、その独特な余白、そこに織り込まれた時間の重なりに特徴があります。
また資生堂ギャラリーという空間にも、かつて雪岱が机を構え制作に勤しみ、品格を保ちながらつねに新しい美や文化を創造してきた「銀座」という街とともに生きてきた豊かな時間の積み重ねがあります。そこに、玉山による新作インスタレーションが現れることで、見つめる人々の身体は空間をめぐり、あるいは作品が来客者の往来をなぞるにつれて、現在と過去の境界線が少しずつ薄まります。約100年の時を隔て二つの感性が重なるとき、その間に生まれる無数の想像はどの時代に存在するのでしょう。そのとき観客もまた、自らの記憶や感覚を重ねながら、もうひとつの「今」を立ち上げていきます。
なお、本展は新進気鋭のキュレーターとしてグローバルに活躍する金秋雨が手掛けます。玉山拓郎による新作インスタレーション、資生堂社収蔵の小村雪岱資料3点が出展されます。
*1:資生堂意匠部について
1916年設立。資生堂初代社長の福原信三が、当時の新進気鋭の若手芸術家を集め、ポスター・新聞雑誌広告の制作、パッケージデザイン等を行った。黎明期の意匠部には小村雪岱、矢部季、三須裕らが名前を連ねる。その後、「宣伝部」を経て、現在のアート&クリエイション本部クリエイション部に至る。
《展覧会の見どころ》
■小村雪岱と玉山拓郎、時代を超えたコラボレーション
今注目の現代美術家・玉山拓郎が、小村雪岱の作品や思想、そして雪岱が生きた時代の銀座から着想を得て、本展のための新作インスタレーションを制作します。約100年の時を隔てた二人の表現が出会うことで、雪岱の美意識を現代の視点から新たに読み解きます。
■光・布・鏡面がつくる、知覚を揺さぶるインスタレーション
玉山による新作は、スリガラスの光、半透明の布、ステンレスの磨き加工による鏡面という三つの要素によって構成されます。光や像、境界が絶えず変化する空間のなかで、観客の視点や身体の動きによって風景は刻々と変化し、「過去」と「現在」と「未来」が折り重なる時間感覚を体験することができます。

本展キービジュアル
■小村雪岱の作品と、記憶としての銀座
会場では、小村雪岱が当社在職時に手がけた3つの作品に加え、雪岱が活躍した当時の銀座の映像や資料も紹介します。資生堂意匠部や九九九会(きゅうきゅうきゅうかい)*2など、雪岱と深く結びついた銀座の記憶が、玉山のインスタレーションと響き合うことで、銀座という場所に積み重なった時間そのものを体験する展示となります。

*2:九九九会について
昭和初期を中心に文豪・泉鏡花を囲んで開かれていた親睦会(サロン)。雪岱もその会員の一人で、小説家や画家など文学、美術の領域を超え、当時の第一線の文人が集ったことで知られる。会の名前は会費が「9円99銭」だったことに由来するといわれている。
玉山拓郎(たまやま・たくろう)

1990年岐阜県生まれ。東京都在住。愛知県立芸術大学を経て、2015年に東京藝術大学大学院を修了。身近にあるイメージを参照して生み出された家具や日用品のようなオブジェクト、室内空間をモチーフに、鮮やかな照明や音響を組み合わせたインスタレーションを制作。最小限の介入によって空間を異化し、あるいは自然の理を強調することで、鑑賞者の身体感覚や知覚を揺さぶる。2025年、豊田市美術館にて個展「玉山拓郎:FLOOR」を開催。同展をはじめとするこれまでの活動が評価され、令和7年度(第76回)芸術選奨文部科学大臣新人賞(美術部門)を受賞。
小村雪岱(こむら・せったい)
1887年川越生まれ。1908年東京美術学校(現・東京藝術大学)日本画科卒業。1914年、泉鏡花作の『日本橋』の装幀で高い評価を受ける。1918-1923年にかけ、資生堂初代社長・福原信三(1883-1948)に乞われ、「意匠部」に所属。当時、主流だった欧米スタイルに対して、和風のデザインを担当、退職後も資生堂社とは深い縁を結び続ける。30代半ばには、松岡映丘(1881-1938)に師事、日本画家としての素養を積んでいたが、邦枝完二(1892-1956)の新聞小説『おせん』で挿絵画家としての地位を不動にする。また、歌舞伎や新派の名優の要請により数々の舞台芸術を手掛け、才能を発揮した。1940年永眠(享年53歳)。没後、資生堂ギャラリーでは二回、資生堂アートハウスでは四回の展覧会を開催。資生堂社の小村雪岱収蔵点数は70点を超える。近年、全国で回顧展が開催されるなど、雪岱への再評価が本格化している。
金秋雨(きん・しゅうう)
東京を拠点に活動するキュレーター、研究者。現在、東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科博士後期課程に在籍。2019年よりインディペンデント・キュレーターとして、国内外の展覧会やアートフェアなどで企画・キュレーションに携わる。
■「今はいつのことか―小村雪岱と玉山拓郎」開催概要
会期:2026年11月3日(火)~2027年2月28日(日)
会場:資生堂ギャラリー
〒104-0061 東京都中央区銀座 8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下 1階
TEL:03 -3572 -3901 fax. 03 -3572-3951
URL:https://gallery.shiseido.com/jp/?rt_pr=trv86 (資生堂ギャラリー ホームページ)
https://www.instagram.com/shiseidogallery/ (資生堂ギャラリー Instagram)
https://twitter.com/ShiseidoGallery (資生堂ギャラリー X(旧twitter))
開館時間:平日 11:00~19:00 日・祝 11:00~18:00
休館日:毎週月曜休 (月曜日が祝日にあたる場合も休館)
2026年12月21日(月)~2027年1月11日(月)
入場料:無料
主催:株式会社資生堂
■関連企画
本展に関するトークイベントなどを予定しています。
■資生堂ギャラリーは 以下に参加します(以下、開催順)
ARTE TOKYO(10月10日(土)~12月31日(木))
https://artetokyo.jp/ja/

DESIGNART TOKYO 2026(10月30日(金)~11月8日(日))
https://www.designart.jp/designarttokyo2026/

ART WEEK TOKYO 2026 (11月4日(水)~11月8日(日))
https://www.artweektokyo.com/

■展覧会カタログ
タイトル:『今はいつのことか―小村雪岱と玉山拓郎(仮題)』
出版社:oar press
寄稿:金秋雨、他
デザイン:林頌介
発行・発売時期:2027年1月頃を予定
仕様(判型、ページ数など):A5変形、約128ページ
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